2020/08/27 20:49
「たった40回しか出荷していないから、毎年毎年自信はないんだ」
冨山司さんは高校卒業後にぶどう栽培の道に入り40年。 町内の赤沢地区の生産者でつくる「赤沢果樹生産組合」の組合長や、160人の生産者が所属するJAいわて中央ぶどう部会の部会長を務めるなど、その栽培技術の確かさは誰もが認めるところ。
にもかかわらず、いやだからこそ、自らの力を過信することなく作業の手を抜くことはありません。
「天候は毎年違う」だからこそやるべき作業を確実に
「天候は毎年違うし、生きものだから『この品種はこう育てれば間違いない』なんてことはない」と司さん。
「ぶどうは『ひとり3反歩まで』」が紫波でぶどうを育てる先輩たちからの教えだと言います。 3反歩とは約3000平方mのこと。 どんな野菜や果樹の栽培でも、苗木の成長を見ながら、植え付け、芽かき、追肥といった作業を適した時期に行うことで生産物の質や量を保つことができますが、ぶどうはほかの果樹に比べても適期を逃してはならない作業が多いのです。
5月中旬 ごろから秋の収穫までは毎日、背丈より高いブドウの棚に腕を伸ばし、ぶどうと向かい合う毎日。 だからこそ、3反歩以上の畑を持てば、適期のうちに作業を終えるのが難しくなります。
「適期作業が何より大事」。
その信条をこの40年間大切に守ってきた司さんの心強い助っ人 が長男の知倫さん。
知倫さんは秋から冬にかけては杜氏として関西などの酒蔵で酒造りの責任者として働き、夏場は紫波に戻り司さんと一緒にぶどうの作業に汗を流す、日本三大杜氏の一つ「南部杜氏」の発祥と言われる紫波ならではの二足の草鞋を履いた農家です。
親子2人のブドウ栽培 手塩に掛けたシャインマスカット
紫波で醸造しているワイン用のぶどうを長年栽培してきた富山さん親子が15年ほど前から手掛け始めたのが生食用ぶどう。
醸造用に比べてさらに手間ひまがかかると言います。
「生食用は味はもちろん見栄えも大事」。
天気が安定しないとひとつの房の中で空間があいて均一に身を付けないなど、司さんが理想とするぶどうになりにくく、天候や温度を感じながらやきもきすることも。
それだけ手塩に掛けて育てたシャインマスカットへの思いはひとしお。
「ヨーロッパのぶどうとアメリカのぶどうの両方の良いところを取ったすごいぶどう」だと太鼓判を押します。
「ぶどうをやってて毎年一番楽しいのは出荷する時。今年も今から待ち遠しい」。
その時を思い描ていて、今日も家の裏の畑でぶどうの蔓に腕を伸ばします。